ベンチャー通信コラム

ベンチャー企業の歴史

文:明石智義 (ベンチャー通信 発行人)

 ここ10年、日本は第三次ベンチャーブームと言われている。しかし、ベンチャーブームは今に始まったことではない。過去に日本では2つの大きな「創業の波」と、3つの「ベンチャーブーム」があった。「創業の波」とは、時代の一大転換期に起こった比較的長い流れであり、「ベンチャーブーム」とは短期間のうちに終わった小規模の流れである。ここではベンチャー企業を「歴史」の観点から見ていく。過去の「創業の波」と「ベンチャーブーム」を振り返りながら、読者の皆さんには現在の第三次ベンチャーブームを俯瞰的に見てもらいたい。

創業の波

第一の創業の波 (明治維新) 

 約260年も続いた江戸幕府による幕藩体制が終わりを告げ、近代国家として歩み始めた頃、「第一の創業の波」が始まった。この当時に活躍したのが日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一などである。渋沢は第一国立銀行(現:みずほ銀行)を設立、また東京海上火災保険、東京ガス、清水建設、王子製紙、新日本製鉄やサッポロビール、そして帝国ホテルをはじめ日本の代表的な企業を創設した人物である。また彼は東京証券取引所や東京商工会議所の設立にも関わった。そして三菱グループの創始者である岩崎弥太郎も、この当時の代表的な起業家である。まさに今の日本経済の礎が築かれた時期こそ、「第一の創業の波」である。


第二の創業の波 (第二次世界大戦直後) 

 1945年に第二次世界大戦が日本の敗戦とともに終わり、新たな時代の幕開けとなった。そして、一面が焼け野原となった敗戦直後の日本に、後の世界的企業になるソニーやホンダが産声をあげる。この「第二の創業の波」で生まれたベンチャー企業が、世界から“奇跡”とまで言われたその後の日本の高度成長を牽引していった。

ベンチャーブーム

第一次ベンチャーブーム (1970年前後) 

 1970年頃から始まった「第一次ベンチャーブーム」。この第一次のブームでは、研究開発型のハイテクベンチャーや外食ベンチャーが数多く設立された。しかし、1973年の第一次石油ショックによる不況期の突入によって、それらのベンチャー企業は霧散してしまう。現在残っている企業はほとんどないが、この当時に設立されたベンチャー企業で現在も生き残り大企業にまで成長している企業が何社かある。具体的な企業名を挙げると、ハイテクベンチャーでは「日本電産」、「キーエンス」などが有名。外食では「すかいらーく」が有名だ。他にも「ぴあ」や「コナカ」などもある。


第二次ベンチャーブーム (1980年代前半) 

 1980年代前半に始まった「第二次ベンチャーブーム」。当時は従来の製造業中心の産業構造から、流通・サービス業を中心とした第三次産業が拡大した時期である。またジャスダック市場(店頭市場)の上場基準緩和なども追い風になり、ベンチャーキャピタルの設立ラッシュも始まる。しかし85年末からの円高不況により「ベンチャー冬の時代」に突入、大型ベンチャーの倒産が相次いだ。この当時に設立されたベンチャー企業で有名なのが、「エイチ・アイ・エス」、「ソフトバンク」、「スクウエア」、「CCC(TSUTAYAを展開)」などだ。


第三次ベンチャーブーム (1995年前後〜現在) 

 1995年前後に始まった「第三次ベンチャーブーム」。第三次ベンチャーブームは、現在まで続いていると言われている。また、このブームで興味深いのは、ブームが不況期に始まっているという点と、ブームが10年以上の長期に渡って継続している点だ。バブルが崩壊して、日本経済が長期不況に突入した95年からブームがスタート。その後、政府が主導してベンチャー支援の政策が次々に打ち出される。そして10年以上に渡る長期的なベンチャーブームが実現した。
 これは不況が長期化する中で根本的な産業構造の変革に迫られた政府が今までのようにベンチャーを“ブーム”ではなくて、ベンチャーを時代の大きな流れ、つまり“トレンド”にしようとした表れでもある。政府はベンチャーの育成なくして、今後の日本経済の活路は見出せないと考えた。したがって今までの第一次、第二次のベンチャーブームと、その背景は本質的に異なり、今後もこの「第三次ベンチャーブーム」がさらに続けば、もはや“ブーム”などという名称は使われなくなり、日本にベンチャーを育む土壌が本質的に整ったことになる。

※補足 第三次ベンチャーブームを“ブーム”で終わらすな。

 では、1995年前後から始まった「第三次ベンチャーブーム」を単発的なブームで終わらさないためには、どうすればいいのだろうか。私個人としての意見を言えば、それはベンチャー企業の“質”にかかっていると思う。ベンチャー企業の“質”が悪ければ、ベンチャー企業は短期的な打ち上げ花火で終わってしまい、世間からの評判も落ち、ベンチャーは単なる“ブーム”で終わってしまう。逆にベンチャー企業の“質”が高ければ、ベンチャー企業は順調に成長していき、世界的な大企業にまで発展していく。つまり、ベンチャーをブームで終わらせるのか、ベンチャーを社会の大きな流れにまで発展させることができるかは、ベンチャー企業が本物か偽物かによるのだ。では、本物のベンチャー企業とは、どんなベンチャー企業なのかを次頁から解説していきたいと思う。ちなみに本物のベンチャー企業を言い換えれば、“真っ当なベンチャー企業”とも言える。こちらの呼び名の方が私としては、シックリくるので次回からは“真っ当なベンチャー企業”と呼ぶことにしたい。