※下記はベンチャー通信第21号(2006年11月)から抜粋し、記事は取材時のものです。
―まず藤原さんが考える“起業家”って何ですか?
藤原:起業家とは、世の中に新しい価値を生み出す人のことだと思います。でも、今までにないような価値を生み出す人は、起業家でも1%くらいじゃないでしょうか。たいていは、既存のものを改良したり代替したりして、起業するんだと思います。また、その新しい価値を世の中に波及させるのに、会社経営という手法を使う人を、世の中では“起業家”と呼んでいますよね。でも僕は、会社経営する起業家だけが、“起業家”とは思っていません。業を起こすということなんだから、別に会社法人でなくても、NPO法人や学校法人でも構わない。特に日本では、NPOや学校などのノンプロフィット(非営利)の現場に優秀なマネジメント層が不足しています。欧米では、ビジネスの最前線でバリバリ仕事していた人が、※ソーシャルアントレプレナーとして、ノンプロフィット分野で活躍する例も多い。日本もそうなるべきでしょう。学校の校長なんかも、民間から優秀なマネジメントをスカウトするべきだと思いますね。でないと、国民の税金がとても非効率に使われることになる。
―藤原さんは、会社経営をする起業家タイプですか?
藤原:僕は会社経営をする起業家タイプではありませんね。会社は利益追求が至上命令なので、経営者には、お金に対する執着心が必要です。僕はリクルートで働いていた時に、創業者の江副浩正さんを間近で見て、自分とは全くタイプが違うなと痛感した。もともと父も公務員だったので、僕はそんなにお金に執着できないんですよ。でも、世の中に新しい価値を波及させたいという強い気持ちはあった。それが、いまのような公立の中学校長という立場での教育改革につながっているんだと思います。今後日本でも、僕のようにビジネスの世界でマネジメントを経験した人材が、もっとたくさん公立小中学校の校長になり、教育現場を変えていってほしいと願っています。
―起業家タイプというのは、具体的にはどんな人材ですか?
藤原:それは「情報編集力」に優れている人材でしょう。「情報編集力」とは、例えばおもちゃのレゴを組み合わせる力みたいなものです。自らの想像力を頼りにブロックを自由に組み合わせて、街や宇宙船を創りだす。これは起業家だけに限らず、だれにでも、日本のような“成熟”社会で必要となってくる能力でもあります。日本のような20世紀の“成長”社会では、あらかじめ全体の図を決められた上で、動いていればよかった。つまり、そこでは「情報処理力」が求められた。たとえばそれはジグソーパズルを少しでも早く完成させる力のようなもの。日本の受験教育も、この「情報処理力」を鍛えるためのものでした。とりあえず知識の詰め込み教育をして、テストをやって、たった一つの正解に少しでも早くたどりついた人が優秀とされた。
ところが、現代の日本は“成熟”社会になり、加えてグローバル化と少子高齢化の波も起こり、価値観が多様化してきています。昔のような画一的な価値観を追い求めるような状況ではなくなってきた。こういう社会では、たった一つの正解なんてない。常に試行錯誤を繰り返しながら、自分独自の解を見つけ出さなければいけない。ここで必要となってくるのが、先ほど言った「情報編集力」なんです。試行錯誤を繰り返しながら、常に自分の頭でモノを考えて納得できる解を出していく。こういう能力が必要なんです。これは詰め込み型の受験教育だけでは養えない種類のものですね。もちろん「情報処理力」を鍛えれば、少なくとも頭の回転は速くなる。でも、新しい価値を生み出す起業家には、頭の回転の速さだけでなく、頭のやわらかさも同時に求められる。つまり発想力が欠かせない。だから、これからの教育は起業家型の人材を育成する意味でも、今までの“正解主義”偏重の教育から脱皮して、「情報編集力」も一緒に鍛える教育に変わっていかなければいけない。